江部寿貴 インタビュー

江部寿貴 インタビュー

日常がちょっと幸せになるモノ


ーものを選ぶ基準を教えてください

時代に流されないようなスタンダードなものが好きです。トレンドに乗っていくことに疲れてしまったのかも(笑)。自分が気持ちよくいられるものがいいですね。
見た目の好みは、今回セレクトしたものを見てもナチュラルなものが多いですね。洋服もロゴが大きくプリントされているようなデザインのものはあまり着ません。過剰なデザインって一つの記号になってしまうじゃないですか。そのブランドの洋服を着ているから、こういうブランドが好きな人なんだな、というようにそのもの自体で自分が図られるのがあまり好きではなくて。だからナチュラルなものが好きなのかもしれません。


ーものを選ぶ基準は昔と変わってきましたか?

これまで散々いろんなものにお金を使ってきて、エバーグリーンなものを好むようになりました。あまりもの持ちが良くないのですが、それでも残っているものはベーシックなものばかりです。


ーものの情報源はどこからですか?

デジタルでは、もう完全にインスタ。
フィジカルだと街を歩いて情報を得ます。編集長を退任してから、すごく街を歩くようになったんです。例えば、前職時代にビルのレセプションに招待いただいて、その会場には行ったけどビル全体を見たことがないから行ってみようとか。行ってみたかったあのお店に行こうとか。この2,3ヶ月、いろんなお店に行ったりしてよく街を歩いています。そうすると、ものの情報って足で稼げるんですよね。10代の頃に、渋谷や原宿を意味なくずっとウロウロして見たことない洋服を発見したように。



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ー実店舗で衝動買いはされますか?

ウェブでは衝動買いをすることはあるけど実店舗ではないですね。デジタルで二次元でものを見ていると、そこには幻想があって、衝動買いをさせる力があるような気がします。フィジカルでものを見ると満たされてしまうのかな。


ー最近、何か買い物をされましたか?

サーフボード、眼鏡、服もちょこちょこと。Dickiesの874ワークパンツは、インチ違いで今年3本買い足しました。
それと、数年振りに財布を買いました。COMME des GARCONSのL字型財布。COMME des GARCONSの財布ってめちゃめちゃスタンダードですよね。雑誌屋が言ういわゆるステレオタイプのスタンダードではなくて、普遍的というか、ずっと売っているものじゃないですか。もうそれはファッションではないと言うか。SUPREMEのボックスロゴやRALPH LAURENのポロマークってトラッドで、誰が着ていてもずれないように。この財布ってスタンダードだよなと思って購入しました。


ーものの対価は、買い物する時にどのような影響がありますか?

安く買いたい気持ちって絶対にある、でも安いことで満足できない気持ちもある、永遠の矛盾なんだと思います。特にファッションはそうですよね。Tシャツにブランドロゴがプリントされていることで、数百円のボディのものが、数千円、数万円で売られる。安く買いたいけど、これ高いなと思いながら買う自分に酔ってしまうような満足感がある。

今の世の中を見ていると、ものを安いから買うという姿勢はすごくナンセンスだと思います。作る人や生産の背景もハッピーにならないといけない。安くすると言うのは削り合いを生むだけ。経済学の基本概念では利潤を追求することが正義で、ものを生み出す中で差をつけるのが利潤になる。仕入値を安くして、売値を上げて、利益を最大化することが純粋な動き。でも今やそれは矛盾と行き詰まりを見せていて、もっとフェアなものとしての対価を支払うべきだし、そんな世の中になって欲しいなという願いはあります。ただ一方で何度も言うように、やっぱり安いものを買いたいという、ある種人間の本能的なものもあるわけで。世の中そのせめぎ合い中だと感じます。






ーコレクションしているものはありますか?

全くないです。収集癖がある人を羨ましいなって思います。


ーここ数年で一番ヒットした買い物を教えてください

OCEANSの編集長に就任した時に購入したCartierの時計。
いろんな方を取材してきて、節目節目に買い物をする方がたくさんいらっしゃるんですよね。スポーツ選手であれば優勝した時に記念として何かを買うとか。そういう買い物っていいなと思い、財産価値があって長く使えるものを思い出として購入しました。


ー江部さんを構成する3つのアイテムを教えてください

眼鏡。眼鏡がないと生きていけないので。
サーフボード。元気なうちはずっとサーフィンしていたいですね。
あとは本かラジオかな。






ーラジオが好きな理由はどういうところですか?

AMもFMも聞きますし、地方局もご当地感があって好きですし、海外に行った時も必ず聞きます。
好きな理由は、空気を感じられるからかな。空気というのは、今この日この時間を共有できるところ。今や、NetflixやTVerなどで自分の好きな時間に好きな番組を見られるじゃないですか。ラジオもradikoにタイムフリー機能はありますが、ラジオを聞いている時間をみんなで共有している感じがすごく楽しいんです。


ーどういうところから、ものによる豊かさを感じますか?

「コンヴィヴィアリティのための道具」という本を読んでいてそこにも書かれているのですが、ものの豊かさとは不便さなんだと思います。
道具がどんどん便利になり、全てがオートメーションになっていくと、それは人が道具に支配されているのと同義になっていく。
ライカが売れているのもオートフォーカスは便利だけどあえて自分でピントを合わせることに喜びを感じたり、レコードプレイヤーが見直されているのもオートプレイは簡易的ですぐ音楽を聴けるけれど自分で針を落とすことが楽しかったり。そういう一手間に人の感情の揺らぎみたいなものがあるというか。ものの豊かさとは、そのものを使う喜びにあるんじゃないかなって思います。


ー江部さんにとっていいものとは何ですか?

心が揺れたもの、感情を大きく動かすもの。






ーどうしてセレクターのオファーを受けていただけたのでしょうか?

HATCHを見て、ものが2つ集まるとその人の個性が出るなって思ったんです。AさんとBさんが同じものを選んでいても、2つ目にそれぞれが違うものを選んだ時に見え方が変わってくる。そこに参加させていただけるのは面白いなと思いました。それと、自分が何者なんだという整理ができるいいチャンスだなと。人が期待する自分ってなんなんだろう、自分が選んできたものってなんなんだろう、と振り返ることができるいい機会でした。


ー人によるキュレーションというコンセプトについて、どう思われますか?

人の構成要素はいろいろある中で、やっぱり人はものでできているんだなって感じますね。その人が好きなもの、使っているもの、興味があるものにはその人の個性が出るし、そしてそのもの自体にも新しい価値が見出されて面白いですね。


ーHATCHでのアイテムセレクトのコンセプトを教えてください

ウェルネスやウェルビーイングといった人生の本質的な豊かさを、ものを通して提案するようなセレクトをできればなと思っています。






ーHATCHのお客様へ一言

若さや美しさというのは人が追い求めているもので、それがウェルネス、ウェルビーイングな生き方を支えていて、それって無くなって初めてわかることなんですよね。髪の毛が薄くなってきてはじめて、もっとケアしておけばよかったなとか。先週ギックリ背中になって大変だったのですが、ストレッチをちゃんとやっておけばよかったなとか。
HATCHのお客さんには僕より若い方もたくさんいると思いますが、今後のウェルビーイングな生き方のために備えて損はない、投資しがいがあるものをセレクトしたので、ぜひチェックしていただけると嬉しいです。


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