俯瞰して、自分とフィットするもの選び
ーものを選ぶ基準や、ものへのこだわりについて教えてください
そのものの裏にある、思い入れやストーリーにグっとくると、手に入れたくなります。
例えば、このドラムはあまり日本にはなくて、レアといえばレアなものなんです。でも、それ以前に、どうすればドラムの音をよりよく聞かせられるのかということを、ミュージシャンとして長年考えていて。金属だと反応はいいのですが、ぶ厚すぎると重くなってしまうとか。木だと柔らかいんだけど、時として音がボテッとしてしまい、あまり好きじゃないなとか。日頃お風呂に入ってるときなんかに考えているんですね。いろいろ考えて、考え抜いた結果、たどり着いたドラムがこのメーカーなんです。
単純に見た目がいいとか、レアだからとか、そういうことだけで手に入れてしまうと、飽きたときにもういいやってなってしまう気がして。そうならないために、買う前にいろんな理由づけをする感じです。
ー見た目と機能性はどちらを重視しますか
機能性です。例えば、すごく重くて持ち運びしづらい、でも音は最高というドラムがあったとして、僕は持ち運びしやすい方を選びます。ギターも、ネックが太くてボディーが大きかったら、いい音が鳴りそうじゃないですか。だけど弾きづらかったら、音がよくても段々遠のいてしまいます。
ーものを選ぶ基準は昔と変わってきましたか?
昔は見た目がいいからという理由だけで買うことも多かったですね。
今は、どうしてこれを買いたいのか、これを買うことでどういう思い出が作れるんだろう、ということを考えるようになりました。周りのムーブメントに流されなくなってきたというか。
年を重ねるにつれて、やっぱり残っていくべきものって、ずっと残っていると思うんです。あ、これあの人があのときにプレゼントでくれたものだからだとか。気付いたらやっぱり使っているなってものが結構あるんですよね。
使っていないものや着なくなった洋服は、実は早々に人に譲ったりしていて。買ったことすら忘れているものもあったりして。その都度その都度、自分を振り返っていると淘汰されていくような感じです。
ーものの情報源はどこからですか?
10年ほど前から群馬県の桐生市に住んでいるのですが、群馬県のキャパシティだからこそ、こだわってものを取り扱っている人たちが際立つんです。なので、セレクトショップを調べてピンポイントでそのお店に行って、そこの店長さんと仲良くなって。自分で選ぶというより、最近のオススメありますかって聞くと、ただオススメしてくれるだけじゃなくて、必ずその洋服の裏にあるストーリーを説明してくれるんです。こういうデザイナーさんがいて、こういう工場でこういう編み込みで作られていて、というように。そうすると買いたくなっちゃうんです。そういうやりとりで、自分のセンスというか目利き力が鍛えられてきたんじゃないかな。何かを買うときは人を介して、ということが多いですね。
ー最近、何か買い物をされましたか?
一年くらい前に買ったものですが、ヴィンテージのギター、Gibson ES-330。
僕の好きな、エリオット・スミスとコーディ・チェスナットというアーティストがいるのですが、彼らがこのタイプのギターをよく使っていて、前から同じギターが欲しかったんです。手触りやその歴史を感じたくて、現行品ではなく、リイシューでもなく、本物のヴィンテージが欲しいなって思っていて。そしたら宇都宮の個人でやられているギターショップに一本あったんです。そこの店長さんがまた面白い方で、それもよくて。自分の好きなアーティストからの影響と、そのギターショップのキャラとで、手に入れた一本です。常に近くに置いているので、ついつい手にとってしまいます。
ーものの対価は気にしますか?
小さい頃から父親がずっと言っていたことがあって、どうせ買うのならいいものを買いなさい、と。それは値段が高いものを買いなさいということではなくて、歴史やストーリーとか、自分にフィットしたものであれば、それが高くても安くても、いいと思ったら買いなさいという意味。そのものの裏にあるストーリーにグっときて、自分にフィットするものであれば、値段はあまり気にしません。
ー断捨離されますか?
結構しますね。思い入れのあるもの以外は、人に譲ったりします。誰かに使ってもらうという意味での断捨離をすることが多いです。
ーコレクションしてるものはありますか?
コレクションというのは溜め込んでいくということじゃないですか。だけど僕は、2,3つあれば十分。ギターはベースを含めて4本持っていますが、買った本数だと20本以上はあるのかな。でもその中から選び抜かれてずっと使っている4本が今スタジオに残っていて。ギターコレクターの方って持ち続けますよね。だから僕は、買ってはいるけど、コレクションという感覚ではないんです。
選択肢を多くしておくとか、また欲しくなったときのために残しておくとか、そうすると、瞬間瞬間がぶれる感じがして。この鍵盤1台からどうやって曲を作っていくのか、みたいなところにワクワクするんです。鍵盤も機材もいろんなものがあって、どんな音でも出せますっていう状態になると、僕の性格上、フォーカスが定まらなくってしまうような気がしてしまいます。
物量や人の多さとか、群馬県に住み続けていることと通じるかもしれないですね。
ーここ数年で一番ヒットした買い物を教えてください
この机です。これは今回セレクトしたブックスタンドのメーカーのikususu(イクスス)さんにオーダーメイドしていただいたものです。
音楽制作の机って特殊で、スピーカーと近い方がいいので奥行きはいらないし、でも鍵盤を置くから横幅は欲しくて、、と考えるとオーダーメイドがベストで、前から素敵な家具屋さんだなと思っていたikususuさんにお願いしました。
鍵盤にぴったりはまるサイズ、引き出しの硬さ、鍵盤を弾く時の圧に耐えられる作りとか、いろんなことを自分の中で計算してオーダーしました。当時のオーナーの田中俊朗さんとやりとりをして作っていただいたのですが、数年経って、現オーナーの田中翠さんからご連絡をいただいて。田中俊朗さんがお亡くなりになったことをお聞きして、この机は一生大事に使わせていただきます、という想いです。ここ10年くらいで一番いい買い物です。
ーmabanuaさんを構成する3つのアイテムを教えてください
まずはやっぱりドラム。全ての源です。
それと、この環境、スタジオですね。自宅のスタジオというのは音楽家を目指したときからの夢でした。
あとは洋服かな。アパレル関係で働いている方たちの中には音楽が好きな方が多くて。本当に嬉しいことにお店に入ったら、mabanuaさんの音楽聞いていますとか声をかけていただくことが多くて。そこから展示会に誘ってもらったり、ライブに来てくれたり、ゆくゆくは音楽作ってほしい、モデルをやってほしいみたいな話にまでなったりして。群馬県にきてはじめてできた友達も、洋服屋にいって繋がった人ということもあるかもしれないです。
ーどういうところから、ものによる豊かさを感じますか?
楽器でも、車でも、洋服でも、俯瞰でものとフィットした瞬間に持っていてよかったなって思います。
今日の組み合わせいいね、あの車はmabanuaくんに合ってるねって言われると、それは所有欲とはまた別の満足感。
音楽も同じで、僕の作った音楽を毎日聴いていますとか言われて初めて、作る時の満足感とは別の何かが得られるような感覚と似ているかもしれません。
ーmabanuaさんにとっていいものとは何ですか?
人によって千差万別だと思うので、その人にフィットしているものがイコールいいものだと思います。
あと根本的に、いい人間でいたいっていうのがあって。内面が汚れていると、いくらもので固めても意味がないというか。人があってこそ、ものが輝くと思うので。目的と手段を履き違えてはいけないなっていうことは常日頃言い聞かせています。当たり前なことなのですが、意外と忘れがちかなって思うんです。
ーどうしてセレクターのオファーを受けていただけたのでしょうか?
mabanuaってこういうものが好きなんだよということを知ってもらえるとてもいい機会になるなと思いました。
あと、HATCHてすごい影響力があると思っていて、今回知人のブランドやショップのものもセレクトしたのですが、HATCHだったら取り扱いして欲しいっていうところも多くて。そういう場所で自分を知ってもらえる機会はとてもありがたく、参加させていただきました。
ー人によるキュレーションというコンセプトについて、どう思われますか?
自分がかっこいいって思う人が紹介しているものって、みんな興味があると思うんですよ。だから、いろいろ経てきた人も、これからおしゃれなものが欲しいなっていう初心者の方も、人の顔が見えて、その人がちゃんと1点づつストーリーを語って、お客さんはそれを読んでものを買える場所ってすごく素敵だなと思います。
音楽のサブスクでも、おすすめの楽曲ってすごく発展していますが、やっぱり自分が好きな人からすすめられる音楽の方が、同じおすすめでも思い入れが違ってくるので、それのEC版って考えるとやっぱりいいなって思います。
ーHATCHでのアイテムセレクトのコンセプトを教えてください
実際に長く使っていて、お気に入りのものです。LEH(モンスターソックス)は、僕がまだ音楽で食べられるようになる前から繋がっていて、色々とお世話になっていたブランドさんですし。
HATCHからセレクターのオファーがきました、だからぽっと出でそのためによさそうなものを選びました、というものは一つもありません。
どれも長年かけて養ったものの上で選んだものです。
ーHATCHのお客様へ一言
俯瞰して、自分とそのアイテムが並んだときにイケているかどうか、そういうことを想像して買い物を楽しむと面白いと思います。