土井地博 インタビュー

土井地博 インタビュー

インプットしてアウトプットする

ビームスとライゾマティックスから派生したフロウプラトウとの合弁会社「ビーアット」の代表をやっています。表現者の活躍のフィールドを広げるクリエイティブエージェンシーの会社です。世の中の人は全員表現者だと思っていて。人の心を動かす事が出来る存在だと思っています。例えば、昔はカメラマンは、学校に行って勉強してとか、師匠に教えてもらってとか、専門職だったと思うんです。でも、今では、スマートフォンなどで写真を撮ってSNSに投稿すれば、それはもうカメラマンであり、編集者でもある。80歳のおばあちゃんがアプリを作り、10代のプログラマーもいる、オールメディアの時代だと思うんです。とはいえ、まだまだ面白い人がたくさん眠っているので、クリエイターがもっと楽しい表現方法をできるようなプラットフォームを作りたいなと。それを、カルチャーとデジタルという、ビームスとライゾマティクスのそれぞれの強みを生かして、エージェンシー的な立ち位置で、クリエイターと企業、行政や個人などを繋ぐという事を手掛けています。
またビームスでは執行役員としてグローバル戦略も含めた全社コミュニケーションのディレクターをしています。個人的な繋がりなども活かし「ビームスというのはこういう会社です」「最近こんなことやっているんですよ」「何か一緒にやりませんか」というようなことを繋ぎ形にしていく役回りです。


お好み焼き一枚で上京

最初は大阪 梅田のショップにアルバイトで入りました。その後、社員になって23歳の時に上京してから15年以上PRをしておりました。
僕、お好み焼き一枚で、東京に来たんですよ(笑)。
社員になって半年くらい経った頃に、社長と副社長など経営陣が大阪に来られるからアテンドして欲しいと上司から頼まれまして。学生時代、情報誌のライターをしていた事もあってか、場所にも詳しいし、ご飯屋さんにも詳しいから、「土井地、お店予約してくれよ」って。
社長が大阪に出張でいらっしゃるのは、まず新店舗オープンの時。大人数で来るので、飲み会も100人くらいになり、そういう時は大体居酒屋を貸し切るんです。それか、少人数でいらっしゃる時。そんな時は、東京でいう銀座のような場所、大阪だと北新地にあるような割烹などに行かれているんだろうなと思って。だから、その中間にあるようなお店には行ったことないはずだと考えたんです。いわゆるB級グルメで、味はS級みたいなカテゴリのお店。そのゾーンのお店リストを見ていた時に、松田優作さんがブラックレインという映画の撮影中にいつも通ったと言われているお好み焼き屋「冨紗家」がいいんじゃないかと思ったんです。大阪に来られた時にいつも行くような居酒屋でもなく、割烹でもないお店。それに、世代的に絶対ブラックレインなどお好きなのかなと想像しながら。
それだけが理由ではないかと思いますが、それが名前を知っていただく機会となり東京に呼ばれる事になりました。2週間後に異動ですよね(笑)。
自分なりの分析で、良かれと思ってやったことがたまたま社長に刺さって。お好み焼き一枚で。本当に何があるかわからないですよね。



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表に出しておきたくなるようなもの

ストーリー性があるものにすごく惹かれます。ものを選ぶときは、まずそのものの背景に物語があるかどうかが大前提にあります。そして、ついつい表に出しておきたくなるようなもの、自分の生活の中で目に見えるところに置きたくなるものが好きです。例えば、ハンドソープ。ドラッグストアで売られているようなものもあれば、ボトルのデザイン性が高いものありますよね。両方使うのですが、自分の中で収まりがいいのは後者なんです。家にお客さんが遊びに来た時は、後者の方を出すんです。でも、前者の方は棚下にしまってあるんですよ。例えば電卓でも、ボタンが大きい日本製のものの方が使いやすいのですが、デザイン性のいい小さいものをデスクに置きたくなる。
だから、ものを持つというのは、目に見えるところに置くかしまっておくか、ここの違いがある。両方ものを大切にするし、所持しているのは変わらないのですが、綺麗とか美しいとか最終的に自分なりの価値をつけていると思うんです。


会話から得る情報

ものの情報は人との会話からですね。ものに限らずなのですが、僕はインプットしてアウトプットする人間なんです。クリエイターやデザイナーではないので、自分で作るのではなく、いいものを見たり紹介されたり教えてもらったものを、「これめっちゃいいよ!これ使ってみて!」って、また別の人に紹介する。この作業が好きなんです。それと、ビームス社内に、もの好き・もの知りがめちゃめちゃ多いんです。スタッフと会話をしていると、とにかくいろんな情報が出てくる。 もちろん、昔のレコードのジャケ買いではないですが、一期一会のようなものとの出会いも好きですよ。
それと、性格的にミーハーで。流行っているものには必ず手を出します。流行っているもの、支持されているものって、必ず理由があると思うんですよね。その理由を紐解いていくと、めちゃくちゃ勉強になる。そういった意味では、流行ってるものには手を出さない、ではなくて、実際に買って体験して分析していくと、実はすごく深かったりするから面白いんです。



ものを買う行為が自分の行動を変えてくれる

例えば車を買う前って、めっちゃカタログを見て、ネットで中古車情報を見たり、スペックだとかいろいろな情報を調べるじゃないですか。
でも、購入の契約をした瞬間に、車に乗ってどこ行こうに変わるんですよ。車内で何の音楽を聞こうかなとか。買う前まで調べていたスペックとかはもうどうでもよくなっている。
だから、実はその買うという行為が、自分の行動や考えを変えてくれるんですよね。
なので、ものを買う前の思考って実は一瞬であって、買ってからの方が長いことを考えると、このものを持ってから自分はどんな生活をすることになるのかなとか、どんな自分の考えになるのかなっていうのをイメージして、いろんなことやシーンが見えてきたときに、やっぱりこれ買おうってなるんです。



HATCHっ「ぽい」アイテム

HATCHは以前から見させていただいていて、単純に好きなサービスです。セレクターを選ばれている運営側のバランスも非常に面白いなと感じます。
それと、今までは、情報が川上から川下に流れていくというか、誰かがこれいいですよっていうのを、マーケットが受け取って、みんな同じものを羽織って、同じものを持ってという時代が長く続いてきたと思うんです。でも、今では、例えばクラウドファンディングなど、消費者の意見を聞いてもの作りをするようになったり。それに、消費者の方が編集者目線だと思うんですよ。単純にオススメされたものを買うのではなく、オススメされたものの中で、自分の生活の中に当て込んで、あ、これならバランスがいいから買おうって。
HATCHに参加されているセレクターの方々も、自分がいいというものだけではなくて、そういった消費者の動向も受け取ってもの選びされてる方が多いのかなって、勝手ながら思っています。僕もそんな考えなので、よくある目利きとしての何々といったようなことだけではない提案をさせてもらえると嬉しいなと思いますね。

僕は長年ビームスにいますが、「ビームスっぽいね」と言われるのがめちゃくちゃ嬉しいんですよ。「それどこで買ったの?」「ビームスで買ったぽいね」「それ、ビームスっぽいね」って。「ぽい」というのはすごく作るのが難しい。多くの人が共通認識を持っているからこそ、「ぽい」という言葉が出てくるので。
僕のセレクトした商品が、「それHATCHで見つけたの?」とか、「HATCHで売られてるっぽいよね」とか、HATCHっ「ぽい」に少しでも貢献できたら嬉しいなと思います。



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