世界中の全ての音楽のなかから「良い音楽」を選び、次世代に継承するアーカイブを目指す
スコラ(schola)とはラテン語で「学校」という意味です。「スコラ的(scholastic)」という言葉を耳にしますが、これは「煩瑣で、堅苦しい」という、どちらかというと悪い意味で使われます。しかし、わたしたちがこのCDシリーズをscholaと名付けたからといって、決してスコラ的な「音楽学」や、堅苦しい「音楽鑑賞」を強要しようというわけではありません。むしろそういうものから自由になることを目指しているのです。だからといって、自分だけの好みの世界に閉じこもるのでもなく、みんながゆるやかに共有できるスタンダード(標準)を作り直すことにより、音楽の歓びを、より広く、より深く共有することができたら素晴らしい。scholaは、学ぶことが楽しみであるような、しかし厳然たる基準をもった、みんなの学校でありたいと思います。退屈な知識の詰まった教科書を捨て、例外的であるがゆえに普遍的であることを目指し、すべての人を見知らぬ音楽との出会いへと誘います。

坂本龍一によるオリジナリティあふれる選曲
全集づくりといえば、ご存じの通りクラシックの場合は同じ曲でもたくさんの録音や演奏があり、そこから僕が聴き分けていくという地道で大変な作業。例えば、「ベートーヴェン」の場合、「運命」は外せないが、指揮者は典型的なカラヤンではなくブーレーズにした。無数にある「運命」のなかで、一番変わっていて「運命」とは思えないほど遅い。これを聴くと、皆さんのなかでできあがった「運命」のイメージが変わり、新鮮なベートーヴェン像が生まれるのではないでしょうか。音楽だけではなく、それぞれの分野には「良いもの」と「悪いもの」を審査する人や基準があり、それをぼくは「スコラ」を通して示したいと思っています。皆さんはあくまでも参考にしながら、自分なりの「良い音楽」を見つけていってほしいと願っています。

クラシックから歌謡曲まで、良い音楽との出会いに
現在、インターネットの普及により、誰もがあらゆる音楽情報に簡単にアクセスできるようになりました。それによって、音楽はいい意味でも悪い意味でも優劣をつけられることなく、並列化されつつあります。旧来の型にはまった音楽観―西洋クラシック音楽を優れたものとし、伝統音楽やポピュラー音楽を劣ったものと見る―が相対化されたことは歓迎すべきことです。実はそのような価値観の見直しは20世紀の最後の四半世紀に起こってきました。 こうした歴史の見直しもあって、今わたしたちは、ありとあらゆる音楽が無差別に並列された混沌の前に立たされることになりました。そのような状況に対してscholaが企てるのは、ほどよい一般性をもった文化の教科書をつくりだすことではなく、圧倒的に突出した音楽を拾いつつ、そこから普遍性をもったスタンダード(標準)をつくりだそうという、きわめて野心的なプロジェクトなのです。このようなスタンダード(標準)の選定は、たんに広くバランスのとれた知識だけによっては不可能でしょう。場合によっては、選者が個人的なこだわりから特殊な音楽を選ぶことがあってもいい。そういう特異性からこそ、普遍性に通ずるスタンダード(標準)は生み出されるのです。文化の規則性からはみ出した例外であるからこそ、いつでもどこでも新しく響く―それこそが本当の「古典(クラシック)」と言うべきではないでしょうか。 スコラを通じて、1人でも多くの若者が音楽に目覚め、精神や才能を磨くための力添えができればとの思いが込められています。